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初任給を上げたら中堅が辞めた──中小企業が陥る給与逆転の罠と、賃金設計を壊さない採用の動かし方

2026 5/03
採用活動
2026年5月2日2026年5月3日
目次

「採用に勝った会社」が、定着で負けはじめている

「今年の新卒、基本給28万円で出したんです。でも入社5年目のベテランが26万円で。先日、そのベテランに『なんで俺より新人の方が高いんですか』と言われて、正直言葉が出なかった」――。ある中小製造業の採用担当者から伺った相談です。

採用競争に勝つために初任給を引き上げた。判断としては正しい。けれど、その判断が次の問題を生み出してしまっています。給与の逆転現象――新卒の初任給が、数年勤めた既存社員の給与を上回る状態。採用に強くなった瞬間、定着が弱くなる。中小企業の人事・採用担当者にとって、いま最も静かに広がっているリスクです。

本記事では、合同会社Via Novaが中小企業の現場で見てきた事実をもとに、給与逆転が採用全体に与えるダメージと、人事・採用担当者が今週から動ける具体策を整理します。

数字で見る「給与逆転」の現在地

帝国データバンクの2026年2月調査によると、2026年4月入社の新卒に対して初任給を前年から引き上げた企業は67.5%。前年(71.0%)から微減ながら、依然として7割近くが引き上げを継続しています。平均引き上げ額は9,462円と過去最高水準。2025年度には初任給30万円以上を提示した企業が130社を超え、前年(58社)から2倍超に急増しました。

問題は、この引き上げが新卒にだけ集中している点です。中小企業の多くは既存社員の給与を同じ幅で上げる体力がありません。結果として「自分より若い社員に給与で負ける」ベテラン・中堅が、社内のあちこちで生まれます。

87.5%が「不公平」と感じている──逆転が引き起こす離職ドミノ

経営プロの調査では、新卒のほうが給与が高くなった場合に「不公平を感じる」と答えた既存社員は87.5%。さらに「転職を検討する」と回答した割合は72.2%に達しています。

不満の理由は「経験年数が違う」(63.3%)、「自分達の給与が上がらない」(49.2%)、「会社への貢献度が違う」(47.7%)。要するに彼らが怒っているのは金額そのものではなく、「自分の経験と貢献が正しく評価されていない」という事実への失望です。これはモチベーションの問題であり、組織への信頼の問題でもあります。

採用担当者として最も恐れるべきシナリオが、ここから始まります。

  1. 採用競争力のために初任給を引き上げる
  2. 既存社員の給与調整が追いつかず、逆転が起きる
  3. 中堅・ベテランが「評価されない会社」と判断し、転職市場に流れる
  4. 現場の指導力が落ち、新卒の定着率も下がる
  5. 翌年の採用で「人がすぐ辞める会社」と評判が立つ

初任給を上げた結果、採用と定着の両方を失う――これが給与逆転の本当のリスクです。

中小企業が陥る「賃金設計の罠」

「じゃあ既存社員も全員上げればいい」と言いたいところですが、中小企業ではそう単純ではありません。帝国データバンクの調査では、従業員20人以下の小規模企業の初任給引き上げ実施率は50.0%と、中小企業(68.2%)・大企業(65.6%)を大きく下回っています。「上げたい気持ちはあっても、収益が伸び悩む中で人件費だけ増やせない」――現場の本音です。

ここで多くの中小企業が陥るのが、「初任給だけを急いで上げ、賃金体系の見直しが後回しになる」という罠。20〜30年積み上げた賃金テーブルはそのままに、入口の数字だけ変える。すると3年後・5年後にテーブル上のキャリアラインと実給与水準がずれ、逆転ポイントが生まれる。これはミスではなく構造上の必然です。賃金体系の再設計を伴わない初任給引き上げは、時限爆弾を仕込んでいるに等しいと理解しておく必要があります。

採用担当者が今すぐやるべき「現状把握」

解決策の前に、まず自社の状況を可視化することが先決です。やるべきは1つ。入社年次別に基本給の分布を出すこと。「2026年新卒の初任給」「2025年新卒の現給与」「2024年新卒の現給与」……と並べてみると、どの年次から逆転が起きているかが一目で見えます。

この数字を採用担当が持っていない会社は意外なほど多い。人事制度が総務や社長直轄で動き、採用部門にデータが共有されていないケースです。まずこの数字を手に入れること。それが問題解決の出発点になります。可視化したうえで「今年の新卒○○万円、入社3年目△△万円」という具体比較を経営層に見せれば、「対策が必要」という共通認識が生まれやすくなります。データなき訴えは通らないのが、賃金の世界です。

賃金体系の再設計──新卒と既存の給与ロジックを揃える

根本的な解決策は、初任給引き上げと同時に賃金テーブル全体を底上げすることです。現実的には2つのアプローチがあります。

① ベースアップ(ベア)との連動

初任給を引き上げる際に、既存社員にも一定率のベアを実施する。伊藤忠商事は2024年に初任給を50万円水準まで引き上げる際、全社員の給与を平均6%引き上げました。大和ハウスも2025年に初任給大幅引き上げと同時に、全社員の年収を平均10%ベースアップしています。資本力ある大手の事例ですが、「比率」で考えれば中小でも応用可能な設計思想です。

② ジョブグレード制(等級制度)の導入

年功序列的な賃金テーブルを廃止し、職務・役割に基づく等級制度を設計する。新卒の初任給も等級上の適切なポジションに位置づけるため、経験を積んだ社員との整合性が取りやすくなります。中小であっても、等級を3〜5階層に圧縮した「簡易ジョブグレード」なら導入可能です。

どちらも一朝一夕にはできません。だからこそ、問題が起きてからではなく、初任給引き上げを検討する段階から既存社員の処遇をセットで議論することが採用担当者の役割になります。採用だけの話ではなく、人事制度全体の話として経営に持ち込む必要があります。

給与以外で戦う──中小企業採用の新常識

初任給競争で大手に勝てない中小企業が採用に強くなるための、根本的な発想の転換があります。それは「給与以外の価値」を採用競争力に変えること。ランドスタッドの「ワークモニター2026」によれば、求職者が重視する要素として給与とともに「ワークライフバランス」「自律性」「成長機会」が上位に並びます。特に若い世代では、給与の絶対額より「この会社でどう成長できるか」「どんな仕事ができるか」への関心が高まっています。

中小企業が大手に対して持つ強みは明確です。

  • 意思決定が速く、若手でも大きな仕事を任せられる
  • 社長や経営層との距離が近く、経営視点を早期に習得できる
  • 給与テーブルが固定的でなく、実績次第で早期昇給の余地がある
  • 福利厚生・働き方で大手にない柔軟性を打ち出せる

これらを「初任給が低い理由の言い訳」として語るのではなく、「うちで働く意味」として正面から打ち出す。給与の数字で戦わない採用設計は、給与逆転問題の本質的な解決策にもつながります。「なぜうちで働き続けるか」という問いへの答えを給与以外でも作る――これが採用と定着の両方に効く。

採用担当者が今週・今月・半年・1年で動くべきこと

明日から動けるアクションを、時間軸で整理しておきます。

短期(今月)

  • 入社年次別の基本給分布表を作成し、逆転ポイントを特定する
  • 来年の新卒提示予定初任給と、既存社員の3年目・5年目給与を比較する
  • 面接トーク・求人原稿に「給与以外の訴求ポイント」を1行加える

中期(半年以内)

  • 給与逆転の現状データを経営層に共有し、既存社員処遇改善の議論を開始する
  • 「等級×役割」のラフ設計を人事と一緒に書き出す

長期(1年以内)

  • 賃金テーブルの見直しをHR・経営と連携して設計する
  • 初任給を引き上げる際は「既存社員のベアとセット」を社内ルール化する

給与逆転は採用だけでは解決できません。けれど、採用担当者が最初に声を上げなければ経営は動かないのもまた事実です。採用に最も近い立場で、組織全体の人材課題を動かしていく――それが2026年の採用担当者に求められる役割です。

Via Novaが提供できる支援

合同会社Via Novaは、中小企業の採用課題に向き合う支援を行っています。代表は国家資格キャリアコンサルタント保有の榊哲也。大手人材企業出身のRPO実務家として、Indeed運用・求人原稿・採用フロー設計・等級制度の整備サポートまで一気通貫で対応します。

  • Indeed運用代行(求人原稿の設計・改善)
  • 採用フロー設計・面接設計
  • 給与設計・等級制度の整備サポート
  • AI(Claude/ChatGPT)活用による採用業務の効率化

「給与逆転の問題を整理したい」「初任給を上げる前に相談したい」という方は、お気軽にご相談ください。

👉 採用支援のお問い合わせはこちら

執筆:榊哲也(合同会社Via Nova 代表/国家資格キャリアコンサルタント)

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