人事評価制度は、30人以下の中小企業であれば「評価項目・評価基準・運用ルール」の3要素だけで作れます。大がかりな等級制度や評価システムは必要ありません。
本記事では、人事評価制度の作り方を中小企業向けに5ステップで解説します。職種別の評価項目サンプルと、運用でつまずくポイントへの対策、賃金への接続の考え方もまとめました。
- 30人以下の評価制度は「評価項目・評価基準・運用ルール」の3要素で足りる
- 導入手順は「目的→項目→基準→運用→試行」の5ステップ
- 評価項目は職種ごとに5〜8個まで絞る
- 賃金への反映は、試行運用で納得感を確かめてからが安全
30人以下の人事評価制度はなぜシンプルでよいのか?
30人以下の人事評価制度は、評価項目・評価基準・運用ルールの3要素を揃えるだけで十分に機能します。
従業員30人以下でも、経営者や現場のリーダーが全員の仕事ぶりを直接見られているかどうかは会社によって異なります。直接見られている状態であれば、等級制度やコンピテンシー辞書(高い成果を出す人の行動を職種別に列挙した辞書)のような仕組みは、整備と維持の負荷が先に立ちます。複数拠点やシフト制で経営者の目が届かない場合は、後述する評価者のすり合わせを先に固めてください。
等級の整備が効いてくるのは、人数が増えて同じ職種のなかで賃金の逆転が起きはじめてからです。判断の目安は、評価者が複数人に分かれ、経営者が全員の働きぶりを直接見られなくなった段階です。そこに至るまでは、3要素のシートを毎年見直すほうが運用は続きます。
一方で、評価の仕組みがまったくないと、昇給や賞与の決め方がブラックボックスになります。「何を頑張れば評価されるのか」が言葉になっていない状態では、従業員から昇給額の根拠を尋ねられたときに説明できません。
厚生労働省「一般職業紹介状況」によると、令和8年(2026年)6月の有効求人倍率(季節調整値)は1.18倍で、前月を0.01ポイント上回りました。新規求人倍率は2.16倍、正社員の有効求人倍率は1.00倍です。集計の対象は全国のハローワークで取り扱った求人・求職に限られます(厚生労働省・令和8年7月31日公表、参照日2026年8月8日)。求職者1人あたりの求人が1件を上回る水準にあり、正社員に限っても1.00倍と求人数と求職者数が並んでいます。求人倍率が1倍を上回る状況では、採用だけで必要な人数を埋め続けるのは簡単ではありません。だからこそ本記事では、いま在籍している人に納得して働き続けてもらうための仕組みとして評価制度を扱います。
揃えるべき3要素は次のとおりです。
- 評価項目:何を評価するか(職種ごとに5〜8個)
- 評価基準:どの状態なら高評価か(3段階で言語化)
- 運用ルール:いつ・誰が評価し、どう本人へ伝えるか
なお、採用市場の環境認識は「中小企業の採用戦略2026|7つの戦略」で解説しています。
人事評価制度の作り方5ステップとは?
評価制度づくりは、目的の明確化→評価項目の設計→基準の設定→運用ルールの決定→試行導入の5ステップで進めます。
5つのステップは順番どおりに進めることが重要です。項目づくりから着手すると、目的とずれた「立派なだけの評価シート」ができあがります。
ステップ1|評価の目的を1つに絞る
目的は「育成」「処遇の根拠づくり」のどちらかに絞ります。最初からすべてを狙うと項目が膨らみ、運用が続きません。
初年度は「育成」に目的を置き、処遇への反映は後回しにする設計が現実的です。日々の行動の方向づけは、育成目的の評価項目を通じて自然に効いてきます。
ステップ2|評価項目を職種別に設計する
評価項目は「成果」「行動」「姿勢」の3区分で、職種ごとに5〜8個に絞ります。全職種共通の項目だけでは、営業と製造の仕事の違いを拾えません。
一方で項目を増やしすぎると、評価者が一人ひとりに時間をかけられず、記入そのものが作業になります。多くても8個を上限とし、シートはA4一枚に収めてください。職種別の項目例は次章のサンプル表を参考にしてください。
ステップ3|評価基準を3段階で言語化する
基準は「期待を上回る」「期待どおり」「改善が必要」の3段階で十分です。段階を5段階や7段階に増やすと、隣り合う段階の違いを言葉で説明しきれず、評価者ごとに解釈がばらつきます。評価の担当者が他業務と兼務になる場合は、段階を3つに絞り、そのぶん各段階の状態を言葉で書き込むほうが扱いやすい形です。
なお、評価が中央の段階に集まる「中心化傾向」と呼ばれる評価誤差は、3段階にしても起こります。段階数を減らすこと自体は対策になりません。だからこそ、次に述べる基準の言語化が欠かせません。
各項目に「期待どおり」の状態を1文で書いておくと、評価者による甘辛の差を抑えられます。
ステップ4|運用ルールを決める
評価は年2回(半期ごと)、評価者は直属の上長または経営者、結果は必ず本人面談で伝える。まずルール化するのはこの3点です。
面談は1人15〜30分で構いません。「評価して終わり」を防ぐ仕組みこそが運用ルールの核心です。
ステップ5|試行導入して半年回す
初回は賃金に反映しない「試行運用」として半年〜1年回します。試行期間中に項目の過不足と基準のあいまいさを修正します。
従業員の納得感を確かめる前に給与へ直結させると、制度の粗がそのまま不信感につながります。
職種別の評価項目サンプルは?
評価項目は職種ごとに5〜8個へ絞り、成果・行動・姿勢の3区分で構成するのが基本です。
| 区分 | 営業職 | 事務職 | 製造・技術職 |
|---|---|---|---|
| 成果 | 売上・粗利目標の達成度/新規顧客数 | 業務の正確性/処理期限の順守 | 納期順守/不良率の低減 |
| 行動 | 提案の質/社内への報告・連携 | 業務改善の提案/他部門への協力 | 作業手順の順守/後輩への技術指導 |
| 姿勢 | 顧客対応の誠実さ | 守秘・コンプライアンス意識 | 安全衛生への意識 |
区分ごとの重みづけは、職種や経験年数で変えられます。例えば営業職なら成果の比重を高め、入社2年目までは行動・姿勢の比重を上げる、といった配分が現実的です。
行動と姿勢の項目は、評価者の主観が入りやすい領域です。だからこそ「期待どおり」の状態を先に1文で書き、期末の面談で本人と読み合わせる手順が要になります。
評価項目は求人票の「求める人物像」と揃っているか?
評価項目を設計したら、いま出している求人票の「求める人物像」と1行ずつ突き合わせてください。
求人票に「成果を正当に評価します」と書きながら、入社後の評価項目に成果指標が1つもない——この状態では、採用の入口で伝えた話と入社後の評価がつながりません。ズレていれば、直すべきは評価項目ではなく求人票の側かもしれません。
面接で「評価制度はありますか」と聞かれたときに、シートの現物を見せられるかどうかは、給与や休日以外の部分で会社を比べてもらう材料になります。試行運用の段階でも「いま整備中で、項目はこの形です」と示せる状態にしておくと、面接での話が具体的になります。
採用段階で候補者の特性を共通のものさしで把握する手段として、当社はTekiLens|適レンズという適性分析サービスも提供しています。合否を判定するサービスではなく、採用判断を支援するものです。分析結果だけで採用の合否を決めるものではなく、職業紹介・求人紹介・求職者のあっせんも行いません。
あわせて、求人票そのものが2024年4月の制度改正に対応しているかも確認してください。職業安定法施行規則の改正により、2024年4月1日から募集や求人申込みの際に明示すべき事項が3項目追加されました。
- 従事すべき業務の変更の範囲
- 就業の場所の変更の範囲
- 有期労働契約を更新する場合の基準に関する事項(通算契約期間または更新回数の上限を含む)
根拠は職業安定法第5条の3第4項および同法施行規則第4条の2第3項です(厚生労働省「令和6年4月より、募集時等に明示すべき事項が追加されます」、参照日2026年8月8日)。ここでいう「変更の範囲」は、雇入れ直後の内容にとどまりません。将来の配置転換等も含めた、契約期間中の変更の範囲を指します。
この「業務の変更の範囲」は、評価項目の設計と直結します。将来的に部門をまたいだ異動を想定しているなら、その範囲を求人票に明示してください。あわせて評価項目にも新しい業務の習得や他部門への協力を入れておくと、入口の説明と入社後の評価が一致します。
なお、労働契約を結ぶ段階では、労働基準法第15条・労働基準法施行規則第5条により次の事項を書面で交付する必要があります。
- 契約期間
- 有期労働契約の場合は更新の基準
- 就業の場所および従事すべき業務(いずれも変更の範囲を含む)
- 労働時間や休日
- 賃金(昇給に関する事項を除く)
- 退職に関する事項
交付方法は書面が原則です。本人が希望した場合に限り、FAXや電子メール等(出力して書面を作成できるものに限る)も認められます(労働基準法/労働基準法施行規則、参照日2026年8月8日)。
選考で取得した情報を入社後の評価に流用する場合も注意が必要です。職業安定法第5条の5は、求人者を含む事業者に対し、求職者の個人情報を業務の目的の達成に必要な範囲内で、その目的を明らかにして収集するよう求めています。保管・使用も収集目的の範囲内に限られます。また個人情報保護法第21条第2項により、応募書類など書面で本人から直接個人情報を取得するときは、あらかじめ利用目的の明示が必要です。根拠は職業安定法および個人情報の保護に関する法律です(参照日2026年8月8日)。選考時に実施した検査の結果や面接メモを、そのまま配属後の評価資料に転用してよいかは、収集時に示した利用目的の範囲に照らして事前に確認してください。
評価制度の運用でつまずくポイントは?
運用でつまずきやすい箇所として、ここでは評価者の甘辛差・フィードバック不足・評価シートの複雑化の3つを取り上げます。
| つまずき | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 評価者の甘辛差 | 部署間で不公平感が生まれる | 基準を1文で言語化し、評価者同士のすり合わせ会議を行う |
| フィードバック不足 | 「査定のための儀式」になる | 本人面談を必須ルールにする(15分でも実施) |
| 評価シートの複雑化 | 記入が負担になり形骸化する | 項目8個以内・A4一枚に収める |
3つに共通する対策は「シンプルさを守り続けること」です。評価シートは毎年見直し、増えた項目を削る勇気が制度を長持ちさせます。
加えて、期初に「今期の重点項目」を本人と2〜3個すり合わせておくと、期末の面談が答え合わせとして機能します。目標設定と評価を対で運用することが、納得感の土台になります。
評価結果を賃金にどうつなげるか?
評価と賃金の接続は、試行運用で納得感を確認してから、賞与→昇給の順にルール化する進め方が安全です。
人件費の下支えは引き上げの局面にあります。中央最低賃金審議会は2026年(令和8年)7月28日、令和8年度の地域別最低賃金額改定の目安を答申しました。ランク別の目安額は次のとおりです。
- Aランク(6都府県):54円
- Bランク(28道府県):56円
- Cランク(13県):56円
目安どおりに改定された場合、全国加重平均は1,121円から1,176円(+55円、+4.9%)となります(厚生労働省・令和8年7月28日公表、参照日2026年8月8日)。この金額はあくまで目安です。実際の地域別最低賃金額は今後、各地方最低賃金審議会の調査審議と答申を経て、各都道府県労働局長が決定します。
下限が上がれば、その上の層の賃金にも調整が必要になります。限られた昇給原資をどう配分したかを本人へ説明できることが、評価制度の実務的な価値です。
例えば賞与原資の一部を評価連動枠にする方法であれば、固定費を増やさずに評価の差を反映できます。昇給テーブル(等級と評価に応じて昇給額を決める表)への接続は、賞与での運用が安定してからで遅くありません。
評価結果を賞与や昇給に反映する場合、そのルールを就業規則(賃金規程)に定める義務があるかどうかは、事業場ごとに使用する労働者の人数によって変わります。労働基準法第89条は、就業規則を作成して行政官庁に届け出る義務を「常時十人以上の労働者を使用する使用者」に課しています。ここで注意したいのは、この人数が会社単位ではなく事業場単位で判断される点です。厚生労働省の「モデル就業規則」は、常時10人以上の労働者を使用する事業場について作成・届出の義務が生じるとしたうえで、就業規則は企業単位ではなく事業場単位で作成し届け出るものだと明記しています。1企業で2以上の営業所・店舗等を有する場合は、企業全体の労働者数を合計するのではなく、それぞれの営業所・店舗等を1つの事業場としてとらえます。届出先も、その事業場を管轄する所轄の労働基準監督署長です(営業所・店舗等の就業規則が本社の就業規則と変更前後とも同一内容である場合に限り、本社所在地を管轄する労働基準監督署長を経由した一括届出も可能とされています)。
この義務がかかる場合、同条第2号により「賃金(臨時の賃金等を除く)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項」は必ず記載しなければなりません。賞与のような臨時の賃金等は同条第4号にあたり、定めを置くのであれば記載が必要になる事項です。作成した就業規則は、同法第106条第1項により、常時各作業場の見やすい場所への掲示・備付けや書面の交付など、厚生労働省令で定める方法で労働者へ周知する必要があります(労働基準法/厚生労働省「モデル就業規則について」および同ページ掲載のモデル就業規則(全体版・PDF)、参照日2026年8月8日)。
一方、常時10人未満の事業場であれば、その事業場について作成・届出義務そのものがありません。本記事が想定する30人以下の会社にも、この層は含まれます。逆に、拠点が1か所しかない会社で在籍者が10人以上いれば、その時点で義務がかかります。全社では30人でも、複数の拠点に分かれていれば事業場ごとに10人以上かどうかを数える、という判断になります。ただし、法令上の義務がないことと、支給の基準を伝えなくてよいことは別の話です。評価と処遇の対応関係を書いたものが社内に1つもなければ、昇給額や賞与額の根拠を本人へ説明する材料がありません。事業場の労働者が常時10人以上になった時点で作成義務が生じることも踏まえると、義務の有無にかかわらず簡易な書面にまとめて共有しておくほうが、運用は続きます。
また、賃金の引き下げを伴う変更は、労働条件の不利益変更に該当する可能性があります。労働契約法第9条は、労働者と合意することなく就業規則を変更することによって労働者の不利益に労働条件を変更することはできないと定め、その例外となる要件(変更後の就業規則の周知と、変更の合理性)を同法第10条に置いています(労働契約法、参照日2026年8月8日)。就業規則・賃金規程の改定は、社会保険労務士など専門家に確認してください。
賃金設計そのものの考え方は「給与逆転の罠と賃金設計を壊さない採用の動かし方」と「初任給インフレ完全攻略ガイド」で詳しく解説しています。
よくある質問
人事評価制度の作り方について、30人以下の中小企業からよく寄せられる質問に編集部が回答します。
人事評価制度がない会社は、何から始めればよいですか?
最初に評価の目的を1つ決め、職種別に評価項目を5〜8個書き出すことから始めてください。書式はA4一枚のシートで十分です。項目と基準ができたら、賃金に反映しない試行運用から着手します。
評価は年に何回行うのが適切ですか?
30人以下の中小企業では年2回(半期ごと)が目安です。年1回では行動を修正する機会が少なく、四半期ごとでは運用負荷が重くなります。回数よりも、評価のたびに本人面談をセットで行うことが重要です。
社長が1人で全員を評価しても問題ありませんか?
30人以下であれば、経営者が一次評価(現場の上長がまず付ける評価)まで担う運用でも制度は成り立ちます。ただし主観の偏りを避けるため、評価基準の言語化と面談記録の保存は必須です。リーダー層が育ったら一次評価を任せ、経営者は二次評価(全体のバランスを見て調整する評価)に回る形へ移行しやすくなります。
評価制度づくりに外部の専門家は必要ですか?
制度の骨格は5ステップの手順で自社設計が可能です。一方、賃金規程や就業規則の改定を伴う場合は、社会保険労務士など専門家の確認を挟むほうが安全です。目的に応じて使い分けてください。
評価制度の導入にはどのくらいの期間がかかりますか?
設計は1〜2ヶ月、試行運用は半年〜1年が目安です。運用の定着には評価サイクルを2回程度回す時間が必要です。初年度は試行、2年目から処遇への接続と考えると無理がありません。
評価結果はすぐに給与へ反映すべきですか?
導入初年度からの反映はおすすめしません。試行運用で評価のばらつきを修正し、従業員の納得感を確認してから、賞与→昇給の順で接続するほうが制度への信頼を保てます。
執筆者情報とお問い合わせ
評価制度をつくる目的が「採ったあとに辞めさせないこと」であれば、入口の求人票と評価項目を揃えるところから見直せます。合同会社Via Novaの採用支援・求人媒体運用代行では、求人原稿の改善から媒体の基本入札運用、月次レポートまでを定額制で代行しています。費用は月10万円〜で、これとは別に求人広告費が必要です。契約は最低3ヶ月からをお願いしており、広告費そのものは月1万円〜の少額予算でも運用できます。ご相談は合同会社Via Novaのお問い合わせフォームから、「どのサービスについてのご相談ですか?」で「採用支援(求人媒体運用代行)」を選んでお寄せください。
執筆:Via Nova編集部
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